そっくりな2種のコウモリはどうやって共存しているのか?糞分析により解明

そっくりな2種のコウモリはどうやって共存しているのか?糞分析により解明

ポイント
?同じ場所に生息する近縁のコウモリ(キクガシラコウモリとコキクガシラコウモリ)の食性を調査し、食物をめぐる種間関係を検討しました。
?体サイズの大きいキクガシラコウモリは硬い甲虫類を頻繁に採食しましたが、体サイズの小さいコキクガシラコウモリは柔らかい蛾類やアミメカゲロウ類を頻繁に採食しました。
?小回りの利く飛翔が得意なコキクガシラコウモリの糞からは非飛翔性のイモムシやクモが検出され、静止している獲物をホバリングしながら採餌していることが示唆されました。
?一方、キクガシラコウモリの糞からは飛翔性の昆虫のみが検出され、飛翔している獲物を空中で採餌していることが示唆されました。
?体サイズの違いにより生じる、咬合力や飛翔能力の違いが2種の食性に違いをもたらし、同じ場所で共存できるようにしていることが示唆されました。

本研究成果は、本研究成果はオランダの動物学雑誌「Animal Biology(略称:Anim Biol)」オンライン版に掲載(10月15日付)されました。
論文名:Seasonal diets of two rhinolophid bats Rhinolophus nippon and Rhinolophus cornutus in the Southern Japanese Alps
著者名:Hayato Takada*, Akiyoshi Sato, Setsuko Katsuta
URL:https://doi.org/10.1163/15707563-bja10115

概要
 国立大学法人中国竞彩网 農学部附属野生動物管理教育研究センターの髙田隼人特任准教授(当時 山梨県富士山科学研究所)と有限会社アルマスの佐藤顕義氏と勝田節子氏らの共同研究チームは山梨県南アルプス山麓においてキクガシラコウモリとコキクガシラコウモリを対象に糞分析(注1)による食性(注2)調査を実施し、2種の食物をめぐる種間関係を解明しました。具体的には、体サイズの大きいキクガシラコウモリは硬い甲虫類を頻繁に採食する傾向にありましたが、体サイズの小さいコキクガシラコウモリは柔らかい蛾類やアミメカゲロウ類、ハエ類を頻繁に採食する傾向にありました。また、小回りの利く飛翔が得意なコキクガシラコウモリの糞からは非飛翔性のイモムシやクモが検出され、構造物上に静止する獲物をホバリングしながら採餌していることが示唆されました。一方、体サイズが大きくコキクガシラコウモリほど小回りが利かないキクガシラコウモリの糞からは飛翔性の昆虫のみが検出され、飛翔している獲物を空中で採餌していることが示唆されました。体サイズの違いにより生じる、咬合力(嚙む力)や飛翔能力の違いが2種の食性に違いをもたらし、このことが、類似する2種が同じ場所で共存できるようにしていることが示唆されました。

研究背景
 コウモリは非常に多様性の高い哺乳類で、世界に1000種以上が生息しています。日本においてもコウモリは最も多様性の高い陸生哺乳類であり、森林生態系には同所的に多くの種が生息しています。似たような行動や生態をもつ複数の動物種がどうやって共存しているのかを理解することは生態学の主要な課題の一つであり、共存を可能にする最も一般的な原理は種間で利用する食物などの資源を微妙に違えることです。日本には多くのコウモリが同所的に生息するものの、小型で飛翔性、夜行性という習性から調査研究が難しく、種間関係に関する研究がほとんど進んでいません。また、日本産コウモリの多くは餌資源やねぐら(注3)を森林環境に依存しているため、コウモリの保全は森林生態系の保全につながると考えられています。しかし、日本産コウモリの多くは絶滅危惧種に指定されており、減少傾向にあると考えられています。日本産コウモリの保全、ひいては日本の森林生態系の保全を進めるためには、各種の基礎生態についての情報蓄積が求められます。
 キクガシラコウモリ(以下、キク)とコキクガシラコウモリ(以下、コキク)はともにキクガシラコウモリ科キクガシラコウモリ属に属する近縁な食虫性コウモリで、日本の様々な地域の同じ場所に生息することが知られています。これらの2種は、そっくりな見た目をしており、菊の花のような構造をした特殊な鼻を持つことや林内などの込み入った環境での飛翔に適する幅広で短い翼を持つという共通の特徴があります。一方で、これらの2種は、体サイズが大きく異なり、キクはコキクに比べて4倍ほどの大きな体を持ちます。コウモリにおいて、体サイズの違いは咬合力や飛翔習性に影響を与えることが知られています。体サイズの大きい種ほど強い咬合力を持ち、体サイズの小さい種ほど小回りの利く飛翔が得意な傾向があり、これらの違いにより類似する種間でも食性に違いが生じる可能性があります。そこで、本研究は同じ場所に生息する2種の食性を糞分析により評価し、食物をめぐる種間関係を検討しました。

研究成果
 山梨県早川町に位置する南アルプス山麓において調査を実施しました。調査地ではキクとコキクの日中のねぐらをそれぞれ人家と隧道で発見しており、ねぐら内のコウモリがよく休息する場所の真下にプラスチックのトレーを設置しました。このねぐらを毎月1回訪れ、トレー上にある新鮮な糞を採取しました。2015年4月から2016年1月までの間に、キクとコキクでそれぞれ合計161個と143個の糞サンプルを採取しました。採取した糞は実験室に持ち帰り、実体顕微鏡を用いて糞の中から出てくる触覚や前後翅、脚、顎などの破片から餌動物を同定しました。その結果、キクでは7目、6科、2種、コキクでは7目、5科、2種の餌動物を同定することが出来ました。キクの主食は硬い甲虫類が中心であったのに対し、コキクの主食は柔らかい蛾類やハエ類、アミメカゲロウ類であり、2種の食性は有意に異なりました。体サイズの大きなキクは咬合力が強く、硬い外骨格に覆われるものの高栄養な甲虫類を利用したのに対し、体サイズが小さく咬合力の弱いコキクは柔らかい昆虫を利用したと考えられました。また、キクの糞からは飛翔性昆虫のみが検出されたのに対し、コキクの糞からは非飛翔性のイモムシやクモ類が検出されました。キクより小回りの利く飛翔が可能なコキクは、地面や植生上で静止する獲物をホバリングしながら採餌していると考えられました。これに対し、キクは主に飛翔中の昆虫を空中で採餌していると推察されました。これらのことから、体サイズの違いにより生じる、咬合力や飛翔能力の違いが2種の食性に違いをもたらしていることが示唆されました。さらに、この食性の違いにより近縁でそっくりな見た目を持つ2種が同じ場所に共存できていると示唆されました。

今後の展開
 夜の空を生活の舞台にするコウモリは直接観察や捕獲が難しく、特に欧米諸国に比べて日本のコウモリは生態に関する研究が不足しています。本研究は地道に糞の採取と分析を実施したことにより、これまで未解明だったキクとコキクの食物をめぐる種間関係を明らかにすることが出来ました。また、2種が森林に生息する多様な節足動物を餌資源として利用しており、多様な餌資源の供給が2種の共存のために必要であることも示唆されました。このような地道なフィールドワークの積み重ねが日本の森林生態系の理解につながっていくと言うことが出来ます。ただし、日本には37種のコウモリ類が生息しますが、食性や採餌習性が明らかになっているのはまだほんの一部分に過ぎません。森林生態系の保全のためには今後も知見を積み重ねていく必要があります。なお、本研究は生態計画研究所 南アルプス生態邑ヘルシー美里の全面的な協力のもと実施されました。

用語解説
注1)糞の内容物を観察して動物の食性を調べる方法のこと。
注2)動物がどのような食物を食べるかの習性のこと。
注3)動物の休息場所のこと。

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図1:南アルプス山麓に生息するキクガシラコウモリ(A;体長6.3-8.2 cm)とコキクガシラコウモリ(B;体長3.5-5.0 cm)。
図2:キクガシラコウモリとコキクガシラコウモリの食性の季節変化



 ◆研究に関する問い合わせ◆

 中国竞彩网農学部附属野生動物管理教育研究センター
  特任准教授
  髙田 隼人(たかだ はやと)
? ? ? TEL:042-367-5826
? ? ? E-mail:takadah(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp

 

 プレスリリース(PDF:676.6KB)

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