?水の伸び縮みを記述する? 液体の圧縮性を表す考え方を提唱

?水の伸び縮みを記述する?
液体の圧縮性を表す考え方を提唱

  国立大学法人中国竞彩网大学院工学研究院先端機械システム部門の田川義之教授、同大学院工学府機械システム工学専攻博士前期課程の栗原千尋氏(研究当時、2018年度修了)、および埼玉大学学術院理工学研究科の木山景仁准教授の研究グループは、試験管に封入した液体を様々な材質の衝突物に向けて落下?衝突させることで、液体が移動する速度を変化させた場合の、液体中の圧力伝播に関する実験的な研究を行いました。本研究では、「加速されている途中」の圧力の上昇を記述するモデルを提案し、本モデルと、実験室で行った実験との間に、一定の整合性が示されることを確認しました。本モデルは、一次元の最も単純なものにすぎませんが、この成果により、今後、より正確かつ統一的な数理モデルの開発が期待されます。

本研究成果は、Journal of Fluid Mechanics(1月16日付)に掲載されました。
論文名:Pressure fluctuations of liquids under short-time acceleration
URL:https://doi.org/10.1017/jfm.2024.1190

背景
 水をはじめとする液体は、空気などの気体に比べて圧縮性が小さい(伸び縮みしにくい)ことが知られていますが、その運動を非常に短い間に変化させる(大きな加速度を加える)場合には、その伸び縮みの影響がはっきり表れるようになります。液体を入れた容器に大きな加速度が加わると、液体は圧縮性の影響を受け、圧力波や相変化といった複雑な現象を生じます。水道の蛇口を勢いよく操作することに伴う異音や、水の入ったガラス瓶を手で叩いて割るトリックなどはその一例です。これらの現象を解析するにあたり、従来の理論では「液体は全く圧縮しない」と仮定するか、あるいは、液体は圧縮し、その情報は時間とともに伝わるものの、その際「加速度付与は瞬時に完了する」と仮定するか、のどちらかのアプローチが取られてきました。しかし、例えば、容器と比較的やわらかい物体が衝突する場合はどうでしょうか。液体が「加速されている途中」にどのような圧力の上昇が生じ、それが伝わっていくのかを、(弱い)圧縮性を考慮した観点から議論したモデルは多くありませんでした。

研究体制
 研究体制:本研究は、中国竞彩网大学院田川義之教授(工学研究院先端機械システム部門)、栗原千尋氏(工学府博士前期課程修了)、埼玉大学学術院理工学研究科木山景仁准教授により実施されました。本研究は、JSPS科研費JP16J08521、JP17H01246、JP20H00223、JP20H00222、JP20K20972、JP24H00289、JP23K19089、JSTさきがけ JPMJPR21O5、AMED課題番号JP22he0422016、および本学グローバルイノベーション研究院の支援を受けて行なわれました。

研究成果
 本研究では、接触(加速度付与)が始まった瞬間から、徐々に圧力が上昇しはじめ、同時に、その情報は波として伝わっていくと考えるモデルを提唱しました。従来のモデルでは加速度付与時間を微小(十分短い)と捉えていたため、明らかにできなかった加速度変化が緩やかな状況に対応するモデルを、ストローハル数(注1)という無次元数の定義を新たに捉え直すことによって構築しました。液体容器と硬さの異なる物体(すなわち、接触時間が異なる物体)とを衝突させる実験を幅広いパラメータで行ったところ、本モデルが圧力変動をよく捉えていることが示されました。加えて、本研究では衝撃センサー(加速度計)を用いて液体中を高速で伝わる圧力波の強さを間接的に推定するという方法を用いています。これは、センサーによって液体の流れを阻害することがないため、流体工学的にユニークな手法であり、幅広い応用範囲に利用することができます。

今後の展開
 打撲による生体損傷など、私たちの身の回りに、比較的やわらかい物体との衝突で生じる流体損傷は多く存在します。このモデルは一次元かつ限られた系での実験しかなされていませんが、そのようなこれまで明らかにされてこなかった現象の解析に適用することができるため、これを基により統一的なモデルの開発が進められると期待しています。

  用語解説
注1)ストローハル数
 流体運動における、流体と音響との特性周波数を比較した無次元量。本研究では、有限の加速付与時間において徐々に上昇する圧力波面の長さと、管路全体の長さとの比として定義した。

 

図1:実験装置の概略図。液体を試験管に封入し、下部に設置した衝突物に向けて落下?衝突させる。このとき、液体の高さL、衝突時間Δt、液体の種類を変化させ、その際の圧力変動を、上部に取り付けた加速度計のデータから間接的に見積もった。


図2:(a) 異なる衝突物材質を用いる場合の加速度波形。Δtは衝突に要する時間で、材質の硬さによって変化する。衝突時の変動(網掛け部)以降は、硬さによって液中圧力変動に伴う加速度の程度が異なる。(b)本研究で提案するモデル(実線)と五種の材質による実験データとの比較。本モデルは、非圧縮性仮定(青線)から従来の圧縮性仮定(赤線)という二つの極端な例を接続し、実験結果の傾向を捉えている。
  



◆研究に関する問い合わせ◆

 中国竞彩网大学院工学研究院 
  先端機械システム部門 教授
  田川 義之(たがわ よしゆき)
   TEL/FAX:042‐388‐7407
   E-mail:tagawayo(ここに@をいれてください)cc.tuat.ac.jp
   

プレスリリース(PDF:630.7KB)

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