癌の早期診断マーカー、マイクロRNAの超低濃度診断に成功~DNAコンピューティング技術を利用~
癌の早期診断マーカー、マイクロRNAの超低濃度診断に成功
~DNAコンピューティング技術を利用~
国立大学法人中国竞彩网大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司テニュアトラック特任准教授と同大学大学院生 平谷萌恵、同大学大学院農学研究院動物生命科学部門の永岡謙太郎准教授と大学院生 張浩林のグループは、DNAを用いて情報処理を行う「DNAコンピューティング技術」と一分子のDNAを検出できる「ナノポア(注1)」を用いて、癌の早期診断マーカーであるマイクロRNAの特異的、超低濃度検出に成功しました。本システムでは、小細胞肺癌から分泌されるmiR-20aと呼ばれるマイクロRNAを等温増幅反応(注2)により1フェムトモル( fM、重量換算で7.5 x 10-15 g/mL)から検出可能な濃度まで特異的に増幅しナノポア計測により電気的に迅速検出することができます。本技術は健康診断などで体液から直接検査する簡易診断への応用が期待されます。
本研究成果は、Nanoscale(電子版9月27日付just accepted in RCS)に掲載されました。
http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2017/nr/c7nr04215a#!divAbstract (別ウィンドウで開きます)
論文名: MicroRNA Detection at Femtomolar Concentration by a Biological Nanopore with an Isothermal Amplification
著 者: Haolin Zhang, Moe Hiratani, Kentaro Nagaoka, Ryuji Kawano
現状
最近癌診断において細胞を調べる細胞生検に代わって、体液等を調べる液体生検(リキッドバイオプシー)が、傷が小さく心身への負担が少ない早期診断法として注目されています。マイクロRNAは各種癌から分泌される短いRNAで、癌の種類によって特定の配列を有することから、癌の早期診断マーカーとして着目されています。体液中でのマイクロRNAはエクソソームと呼ばれる膜構造に包まれているものも多く、かなり低濃度であると考えられており、現状では煩雑な抽出作業を経て診断を行うしかありません。マイクロRNAの超低濃度検出が実現すれば、体液中からの直接診断が可能になると期待されています。
研究体制
本研究は、大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司テニュアトラック特任准教授と工学府大学院生 平谷萌恵、農学研究院動物生命科学部門の永岡謙太郎准教授と農学府大学院生張浩林らによって実施されました。
研究成果
本研究グループは、酵素反応を使って出力分子の増幅を行うDNAコンピューティング技術に着目し、小細胞肺癌の次世代早期診断マーカーである少量のマイクロRNA(miR-20a)を、分子反応により等温条件(37℃)で増幅し、ナノポアを用いることで迅速に検出することに成功しました(図1)。具体的には、マイクロ加工技術で作製した、デバイス中の微小液滴中(約5マイクロリットル)で超低濃度1 fM(7.5 x 10-15 g/mL)のマイクロRNAを等温状態で化学的に安定なDNA分子に変換?増幅し、そのDNAがナノポアを通過する電気信号を検出することで高速?簡易診断を実現しました。
今後の展開
本研究によって、癌の次世代早期診断マーカーであるマイクロRNAを超低濃度、迅速に検出することに成功しました。今後は、本方法により健康診断のような大規模診断の現場において癌の早期簡易診断として検査を行い、陽性の場合精密検査を行うようなファーストスクリーニング技術としての展開が期待できる。
またマイクロRNAには多くの種類が存在し、遺伝子発現を調節することで生物の機能を制御していることが分かってきました。そのため他の種類のマイクロRNAを検出できることで、今後はヒトだけではなく家畜の健康管理、食品材料の栄養状態の分析など、畜産、食品業への展開も期待されます。
注1)ナノポア
膜タンパク質やイオンチャネルによって、脂質二分子膜中に形成されるナノサイズ(直径1.4 nm程度)の孔。一分子の核酸が通過する。
注2)等温増幅反応
鎖置換反応を利用した核酸分子の等温増幅法。ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)のような温度を上下動させる必要がない新しい核酸増幅法。
◆研究に関する問い合わせ◆
中国竞彩网大学院工学研究院
生命機能科学部門 テニュアトラック特任准教授
川野 竜司(かわの りゅうじ)
TEL/FAX:042-388-7187
E-mail:rjkawano(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp