簡単に作製可能ながん組織モデルでがん研究に新たな展開

簡単に作製可能ながん組織モデルでがん研究に新たな展開

 国立大学法人中国竞彩网大学院生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻の飯嶋雄太 大学院生、工学府生体医用システム工学専攻の上中紀乃 大学院生、森本茉友 大学院生、佐藤大記 大学院生、工学研究院先端物理工学部門の吉野大輔 准教授は、国立研究開発法人物質?材料研究機構(NIMS)ナノアーキテクトニクス材料研究センターの早瀬元 独立研究者、東北大学流体科学研究所の船本健一 准教授、廣瀬理美 博士(現 マサチューセッツ工科大学)、国立障害者リハビリテーションセンター研究所運動機能系障害研究部の篠原正浩 博士、﨑谷直義 博士(現 国立研究開発法人産業技術総合研究所健康医工学研究部門)との共同研究により、独自に開発した超撥水性の基板を用いた簡単で再現性の高い手法により作製したがんスフェロイドの特徴を明らかにし、がんの振る舞いを再現する生体外モデルとして活用できることを示しました。この成果は、がんの病態解明や新たながん治療薬の開発などに貢献することが期待されます。

本研究成果は、In vitro modelsにオンライン公開されました(2月13日付)。
論文タイトル:Biological characterization of breast cancer spheroid formed by fast fabrication method
URL:https://doi.org/10.1007/s44164-024-00066-3 

本論文に関連する先行研究
論文タイトル:CNC-milled superhydrophobic macroporous monoliths for 3D cell culture
掲載誌:ACS Applied Bio Materials, Vol. 3, pp.4747–4750, 2020.
URL:https://doi.org/10.1021/acsabm.0c00719

背景
 日本では、2人に1人が生涯でがんに罹患する時代になっています(注1; 国立がん研究センター, がん情報サービス「最新がん統計」)。医療技術の進歩により新たな診断法や治療法が開発され、5年生存率は改善していますが、特に難治性のがんの発生や転移に至るメカニズムなどは未だ解明されていない部分が多くあります。最近のがん研究においては、体内の腫瘍が存在する環境と同じような低酸素状態(注2)で3次元的な組織を作るようにがん細胞を培養することが重要視されています。早瀬元 独立研究者と吉野大輔 准教授はこれまでの研究でがん組織(がんスフェロイド; 注3)を簡単に作製できる手法を開発しました(Hayase and Yoshino, ACS Appl Bio Mater 2020)。既に数種類の3次元的ながん組織の作製手法と比較して、形状や大きさの制御や再現性の面でメリットがある本手法ですが、作製したがん組織の特徴が捉えきれておらず、がん研究に活用できるような体内のがん腫瘍の振る舞いを再現できているかが不明瞭といった課題がありました。

研究体制
 本研究は中谷医工計測技術振興財団技術開発研究助成(奨励研究)とJSPS科研費(21K19893)による支援のもと、中国竞彩网、物質?材料研究機構(NIMS)、東北大学、国立障害者リハビリテーションセンター研究所で実施されました。

研究成果
 作製したがんスフェロイドは、直径数mmであっても比較的短期間(5日間)で成熟させることができます。これは、従来手法で作製可能なサイズ(最大で直径500 ?m程度)を大きく上回ります。乳がん細胞を用いた場合、作製後3日目あたりから、スフェロイドの外表面に細胞が集中し、殻のような層を形成することで内部が高度な低酸素状態になることがわかりました(図1)。その後10日以上に亘って培養を続けると、スフェロイド内部にネクロティックコア(注4)が形成されることも確認できています。また、がん細胞がスフェロイドから脱出する現象も観察され、がんの転移と同様の振る舞いを再現可能であることを示しました(図2)。体内と同様の低酸素状態にした場合には、スフェロイドからのがん細胞の脱出速度が大きくなることもわかりました(図3)。これらの成果から、簡単かつ再現性の高いがん組織モデル作製手法として、がん研究開発に広く活用可能であることを示しました。

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図1:がんスフェロイドの凍結切片の蛍光顕微鏡画像。細胞質に緑色蛍光タンパク質を発現する乳がん細胞を用いて作製したがんスフェロイドを各日数培養し、凍結切片を作製することで内部の様子を観察した。日数が経過するごとに外側に細胞が集中し層を作っていることがわかる。内部が低酸素状態になることで低酸素誘導因子(HIF-1α)の発現も上がる。

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図2:スフェロイドから脱出しようとするがん細胞の様子

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図3:培養環境の酸素濃度を変化させた場合のスフェロイドからのがん細胞の脱出。右のグラフは脱出したがん細胞の平均距離を示しており、酸素濃度が5%の場合に特に脱出距離は有意に大きくなる。


今後の展開

 開発した手法で作製したがんスフェロイドは、従来の手法で作製したがん組織と同等の性能を発揮し、体内のがん腫瘍の振る舞いを再現できることがわかりました。本手法は、細胞の種類に依存せず、性質の異なる複数種類の細胞の共存環境も簡単に作り出すことができます。今後は、血管細胞などとの共存培養により、腫瘍血管新生(注5)などがん腫瘍の周辺環境を再現する生体外がんモデルとして作り込むことで、難治性がんの病態や転移のメカニズム解明に貢献できると期待しています。

注1)国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

注2)低酸素状態
大気中は通常酸素濃度が21%であるが、体内はそれよりも低い酸素濃度となっている。例えば、動脈では10%程度、静脈では5%程度、臓器や筋肉組織などでは3~5%程度である。がん腫瘍は1?5%と非常に低い酸素濃度環境に存在することが多い。

注3)がんスフェロイド
多くのがん細胞が集合、凝集して球状の塊となったもの。

注4)ネクロティックコア
スフェロイド内部で壊死した細胞が塊上になったもの。

注5)腫瘍血管新生
がん腫瘍に向かって新しい血管を形成される現象。がん細胞は自らの増殖に必要な栄養の供給を受けるために因子を放出し、血管新生を誘導する。

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 ◆研究に関する問い合わせ◆
 ? 中国竞彩网大学院工学研究院
 ?? 先端物理工学部門 准教授
 ?  吉野 大輔(よしの だいすけ)
 ? ? ? TEL/FAX:042-388-7113
     E-mail:dyoshino(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp

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?  プレスリリース(PDF:663.4KB)

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