蒸発液体内での粒子濃度分布のリアルタイム計測に成功 粒子充填過程の解明に期待

蒸発液体内での粒子濃度分布のリアルタイム計測に成功
粒子充填過程の解明に期待

 稲澤晋教授(中国竞彩网大学院工学研究院応用化学部門)らは、英国Nottingham Trent大学との国際共同研究で、光干渉断層法*1(OCT)を用いると蒸発中のコロイド粒子分散液の濃度分布を精密かつ迅速に測定できることを実証しました。これまで計測自体が難しかった塗布乾燥分野での利用が進めば、学術としても不明点が多い粒子充填膜の生成過程の理解が深まり、粒子充填構造の制御や新たな機能性粒子膜の作製方法につながると期待されます。

本研究成果は、Soft Matter誌に2月13日に掲載されました。
論文名:Dynamics of drying colloidal suspensions, measured by optical coherence tomography
著者名:Kohei Abe, Patrick Saul Atkinson, Chi Shing Cheung, Haida Liang, Lucas Goehring and Susumu Inasawa
URL:https://doi.org/10.1039/D3SM01560B

現状
 微細な固体粒子(コロイド粒子)が水の中に溶けずに浮遊している分散液を蒸発させると、コロイド粒子が濃縮され、やがて充填されます。分散液の乾燥プロセスは、簡易に粒子充填膜(固体膜)を作製できる手段として、電池電極など薄膜を利用するものづくりでも多用されています。しかし、蒸発中の分散液内の粒子濃度分布を迅速に観測する手段が確立していないため、分散液内のどこでどのように粒子濃度が上がり、粒子充填が起こるのか、についての定量的な理解は不十分でした。粒子膜の性能は粒子の「詰まり方」で変わりますが、どのような制御が可能であるかについては、多くを試行錯誤に頼っているのが現状です。

研究体制
 本研究は、稲澤晋教授、安倍紘平博士(日本学術振興会特別研究員(PD), 現:沖縄科学技術大学院大学、本学大学院生物システム応用科学府博士後期課程2021年度修了)と英国Nottingham Trent大学Patric Saul Atkinson氏(博士課程学生)、Chi Shing Cheung博士、Haida Liang教授、Lucas Goehring教授との国際共同研究の成果です。日本学術振興会(若手研究者海外挑戦プログラムおよび科研費JP21J10968, JP21K18843, JP23KJ2128, JP23H01742)の助成を受けました。

研究成果
 二枚のガラス平板に挟まれたコロイド粒子分散液を蒸発させ、OCTを用いて蒸発端面から10マイクロメートル毎に1000地点で粒子濃度を計測し(図1)、合計1 cmにわたる粒子濃度分布を僅か15秒で計測することに成功しました。また、粒子濃度分布の時間変化(図2)を詳細に解析したところ、これまでの測定では観測できなかった以下の点を明らかにしました。
(1)コロイド粒子が十分に濃縮されると粒子の集団として振る舞い、その拡散係数(拡散のしやすさ)は、粒子単体の値に比べて、最大で数百倍程度大きくなる。
(2)希薄なコロイド粒子分散液では、液膜厚みが0.1 mm程度の極めて薄い場合であっても、液膜内に循環流が生じる。この循環流が蒸発端面での粒子膜生成を著しく阻害する。
いずれも、従来の定説とは異なる発見です。

今後の展開
 光干渉断層法は目の内部検査を行うために用いられている手法でもありますが、本研究では、全く異なる対象である乾燥中のコロイド粒子分散液の定量的な計測法としても利用可能であることを示しました。光干渉断層法は、これまで計測が難しかった粒子濃度分布の経時変化を迅速に測定できる強力な手段で、例えば、光学顕微鏡による目視観察と組み合わせれば、現象の見た目の変化と定量的な評価を両立できるため、未解明な事柄が多い粒子充填の理解がより一層進むと期待されます。


用語説明

*1 光干渉断層法 (Optical Coherence Tomography, OCT)
光の干渉現象を利用して、光が物質内を通る長さ(光学膜厚)を計測する方法。網膜などの目の内部の検査にも利用されている。光学膜厚は物質の実際の厚みに屈折率をかけた値と等しい。


図1 (上図)実験の概略図。赤色点線部分をスキャンして、蒸発端面近傍での分散液内の粒子濃度分布を計測した。(下図)OCTで得られた、乾燥中の粒子分散液内の断面画像。この画像を解析することで粒子濃度分布を定量化できる。図はSoft Matter, 2024, 20, 2381–2393(?The Royal Society of Chemistry 2024)より改変。
図2 粒子分散液内の粒子濃度分布の時間変化。(a)直径110 nm、(b) 10 nmの粒子を用いた測定結果。粒子の大きさによる濃度分布の違いを測定するため、大小2種類のコロイド粒子を用いた。図中の左にある分布ほど、長く乾燥させた時点でのデータである。横軸は図1内のx軸に対応する。この図から、乾燥時間の経過と共に粒子が濃縮されている部分が右から左に移動すること(=粒子膜が成長していること)、直径が大きい粒子の方が急峻な濃度分布を示すこと、が読み取れる。グラフはSoft Matter, 2024, 20, 2381–2393(?The Royal Society of Chemistry 2024)より改変。

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◆研究に関する問い合わせ◆

中国竞彩网大学院工学研究院
応用化学部門 教授
 稲澤 晋(いなさわ すすむ)
 E-mail:inasawa(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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