分子の自発配向を利用した分極薄膜の開発に成功 ~配向分極薄膜による有機デバイス高性能化に期待~
分子の自発配向を利用した分極薄膜の開発に成功
~配向分極薄膜による有機デバイス高性能化に期待~
国立大学法人中国竞彩网大学院工学研究院生命機能科学部門の田中正樹助教は、真空蒸着薄膜内で自発的に配向分極を示す有機低分子材料を開発しました。分子の配向および極性制御を志向した精密な分子設計により、優れた配向分極特性を示す有機薄膜の開発に成功しました。本成果により、今後、有機半導体デバイスや環境発電デバイス等の高性能化に貢献すると期待されます。
本研究成果は、Nature Communications(10月29日付)に掲載されます。
報道解禁日:10月29日 午後7時00分(日本時間)
論文タイトル:Boosting spontaneous orientation polarization of polar molecules based on fluoroalkyl and phthalimide units
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-024-53633-3
背景
有機発光ダイオード(有機EL)等に用いられる一部の極性低分子は真空蒸着薄膜中で自発的に配向分極(SOP、注1)を形成することが知られています。有機薄膜のSOPは有機ELの性能に影響するほか、分極処理が不要なエレクトレット材料(注2)として振動発電に応用できることが報告されており、SOPの実用的な応用のためにSOPの大きさや極性を自在にデザインする材料?手法の開発が求められています。本研究では、1ステップで簡便に合成可能な極性分子骨格を用い、大きなSOPを示す極性分子の開発に成功しました。
研究体制
本研究の一部は、JST創発的研究支援事業(JPMJFR223S)、JSPS科研費(JP23H05406、JP23K13716)、公益財団法人 稲森財団、公益財団法人 徳山科学技術振興財団、公益財団法人 カシオ科学振興財団、公益財団法人 新世代研究所(ATI研究助成)の助成を受けて行われました。
研究成果
本研究では大きなSOP(図1(a))を実現するために、極性分子の自発配向を誘起するフッ化アルキル基と、分子の永久双極子モーメント(注3)を大きくするためにフタルイミド基を合わせ持つ6FDI骨格(図1(b))を用い、極性分子を設計しました。量子化学計算を利用して設計した新規極性分子を真空蒸着により基板上に成膜することで、表面電位を有するSOP薄膜を形成しました。表面電位は膜厚に比例して増大し、膜厚に対する表面電位の成長率は200 mV/nm以上を示し、既報材料では最大の表面電位成長率を実現しました(図2)。また、分子内の極性官能基の修飾位置を変えた位置異性体を用いて、薄膜表面に生じる表面電位の極性を正?負に設計することに成功しました。
今後の展開
本研究では、開発した極性分子薄膜を、有機ELデバイスを構成する有機積層薄膜の界面に挿入することで電荷注入?輸送を制御できることも明らかにしました。この結果は、異種分子界面に意図的に分極形成することにより電荷輸送障壁の大きさを制御できることを示唆しています。開発した極性分子は真空蒸着により成膜できるため、任意の表面に分極薄膜を形成可能です。この技術を応用することで、有機半導体デバイスなどの積層デバイスにおいて、表面?界面物性の自在制御によりデバイス特性の向上に貢献すると期待できます。
用語説明
注1)自発配向分極(SOP)
真空蒸着による成膜過程で、極性分子が永久双極子モーメントを平均的に膜厚方向に配向すること。これにより配向分極薄膜が形成される。蒸着薄膜の表面に、膜厚に比例して増大する表面電位が発生する。
注2)エレクトレット材料
静電荷を長期間にわたって持続的に保持できることにより周囲に電界を提供する材料。
注3)永久双極子モーメント
分子内部での電荷の偏りの程度のこと。
◆研究に関する問い合わせ◆
中国竞彩网 大学院工学研究院
生命機能科学部門 助教
田中 正樹(たなか まさき)
TEL/FAX:042-388-7467
E-mail:m-tanaka(ここに@を入れてください)me.tuat.ac.jp