無針注射器?高粘度塗料オンデマンド塗装の実現に向けたマイクロジェットの速度制御:説明可能なAI による新展開

無針注射器?高粘度塗料オンデマンド塗装の実現に向けた
マイクロジェットの速度制御:説明可能なAI による新展開

 国立大学法人中国竞彩网大学院工学研究院先端機械システム部門の田川義之教授と同大学院博士前期課程在籍の五十嵐大地氏、Yee Jingzu特任助教、博士後期課程在籍の横山裕杜氏、楠野宏明特任助教は、レーザー誘起マイクロジェットの速度に関わる要因を、説明可能なAIにより新たに発見しました。この成果により、針の無い注射器を用いた薬剤の人体投与や環境負荷が極めて少ない高粘度塗料オンデマンド塗装をより安定化できることが期待されます。

本研究成果は、Physics of Fluids (IF=4.6) (1月18日付け)に掲載されました。
論文タイトル:The effects of secondary cavitation position on the velocity of a laser-induced microjet extracted using explainable artificial intelligence
著者:Daichi Igarashi, Jingzu Yee, Yuto Yokoyama, Hiroaki Kusuno, and Yoshiyuki Tagawa
URL:https://pubs.aip.org/aip/pof/article/36/1/013317/3022996/The-effects-of-secondary-cavitation-position-on

現状
 液体内にレーザーを集光することで生じる高速のマイクロジェットは、針を使わずに薬剤を体内に注入する無針注射器や、インクジェットプリンターのような粘度の高い塗料を薄めることなくオンデマンドで塗装する技術への応用が期待されています。無針注射器は、患者の針に対する恐怖や、途上国における感染症の拡大などの根本的な解決策になるとともに、現在は医療行為として行なわれている注射を誰でも簡便にできるようになることが期待されます。また、高粘度の塗料を薄めることなくオンデマンド塗装できると、現在車体塗装などの際に希釈材として用いている有機溶剤を使わずに済み、環境負荷を低減できることが期待されます。しかし、このマイクロジェットは高速であるが故に複雑な流体現象であり、その速度には様々な要因が影響します。このジェット速度が安定しなければ、安全な薬剤投与ができず,塗料の塗布も安定しません。そこで本研究では、様々な要因を扱うことができるAIに注目しました。しかし、一般的なAIは「なぜそのような予測をしたのか」がわからないという問題点があります。そこで、AIの予測過程を可視化できる「説明可能なAI」に着目し、ジェット速度に関わる要因を調査しました。

研究体制
 本研究は、中国竞彩网大学院 田川義之教授(工学研究院先端機械システム部門)、五十嵐大地氏(工学府博士前期課程在籍)、Yee Jingzu特任助教、横山裕杜氏(工学府博士後期課程在籍)、楠野宏明特任助教により実施されました。本研究は、JSPS科研費20H00223、20H00222、20K20972、JSTさきがけJPMJPR21O5、JST SBIR JPMJST2355の支援を受けて行なわれました。

研究成果
 本研究では、細管内の液体にレーザーを集光することで、高速のレーザー誘起マイクロジェットを生成しました(図1左参照)。その際、細管中にはキャビテーションと呼ばれる気泡が生成します。そこで、このキャビテーションのジェット速度に対する影響に着目し、細管内の画像からジェット速度を予測する機械学習モデルを構築しました(図1右参照)。説明可能なAIを用いて画像からジェット速度を予測し、その予測過程を見ることで、ジェット速度に重要な要因を調査しました。1000回分の実験データに対して、機械学習モデルの予測値とジェット速度は強い相関を示しました(図2左参照)。そこで、機械学習モデルが抽出した特徴を調査すると、入力画像と比較してキャビテーションの位置がジェット速度に重要であることを示唆しました(図2右参照)。特に、レーザーを集光した位置から遠いキャビテーションほど、ジェット速度への影響が小さいと考えられます。本結果から、説明可能なAIを用いて今まで人間が見落としていたジェット速度に関わる新しい要因の解明に成功しました。

今後の展開
 本研究で解明した知見により、マイクロジェットの速度制御性を高め、無針注射器および高粘度塗料オンデマンド塗装の実現への大きな前進となることが期待されます。また、説明可能なAIを用いて、複雑な流体現象を捉えた画像に対して人間には捉えられない物理現象を調査するという、新しいアプローチができることが期待されます。

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図1 レーザー誘起マイクロジェット生成画像(左図)と、その画像を用いてジェットの速度を予測する機械学習モデル(右図)。入力画像には、キャビテーション気泡が存在する細管内画像を用い、機械学習モデルにはその計算過程が可視化可能な「説明可能なAI」を用いました。
図2 機械学習モデルによる予測値とジェット速度の関係(左図)と、機械学習モデルが画像から抽出した特徴(右図)。機械学習モデルが画像からジェット速度の予測に成功し、抽出した特徴からキャビテーションの位置がジェット速度に影響することを示しました。



 ◆研究に関する問い合わせ◆
 中国竞彩网大学院工学研究院
  先端機械システム部門 教授
  田川 義之(たがわ よしゆき)
  ? TEL/FAX: 042-388-7407
  ? E-mail:tagawayo(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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 プレスリリース(PDF:752.7KB)

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